するめ本の館『心でっかちな日本人』
山岸俊男、日本経済新聞社、¥1400
(注)イタリック体の文章はすべて本文からの抜粋です。
0,この本を選んだ理由
山岸俊男氏の著作で、単著のものはすべて読んでいます。今回新しい本「心でっかちな日本人」が出たということで読むことにしました。
著者の作品は、すべて「信頼」をキーワードに書かれています。社会を読み解くヒントが隠されているような気がして、新しい本が出版されるのを楽しみにしています。
1,誰のための本か?
いったんいじめが起こると、なぜ消滅しにくいのか?
日本は集団を大切にするといわれているが、本当に集団主義の社会なのか?
ということに興味がある人は必見です。心というもの全般に興味がある人にも見どころたくさんです。社会人になる前の4回生も読んでおくといいかもしれません。これから日本で起こるべく事態を予測し、備えておけと警告をしています。残念ながら、警告に対する答えは用意してありません。各自が探していくことになります。
2,各章のダイジェスト
独断と偏見のダイジェストなので、まとめにはなっていません。あしからず。
[第一章 日本人は集団主義的ではなかった]
心理の実験をして、日本人とアメリカ人のどちらがより集団主義的な行動を取るかを調べています。結論は常識に反して、アメリカ人のほうが日本人よりも集団主義的に行動するという結果が出ています。なぜこのような常識とは違った、つまり私たちの思いこみとは違った結果が出てきたのでしょうか?実験を絶対視するのもいけないですが、幾度か繰り返した実験で同じような結果が出ていることを無視してしまうわけにもいきません。
そこで考えられるのが、『帰属の基本的エラー』です。
ここで「帰属」と呼ばれているのは「原因帰属」のことで、「なぜそんなことをするんだろう」と行動の原因を考えることをいます。
(中略)
私たちが他人の行動の原因を考える際に、まわりの環境のせいでしかたなくそうしたのだと考えるのではなく、自分から進んでそうしたのだと考えてしまう傾向のことです。
例えば、学校の掃除の時間にみんなで掃除をしています。実はみんな内心嫌々やっているのですが、日本人的な集団主義の心を持っているからそうしているのだと解釈するようなことです。端から見ると会社人間のように見える人でも、実際にはいまの会社を辞めると転職が難しいことや、もう少しだけ我慢をすると退職金が手に入ることから、会社に残っていることがあります。しかし、これも端から見て日本的な集団主義のあらわれだと解釈されることがあると思います。これも帰属の基本的エラーです。
[第二章 心でっかちの落とし穴]
いじめを考える際に「帰属の基本的エラー」の考え方が役に立ちます。
なぜいじめがなくならないのでしょうか?
この疑問に対して、私たちはついつい「若者の心が受験勉強ですさんでいる」など、心に原因を求めがちです。しかし、帰属の基本的エラーで考えるといじめについて別の解釈も可能なことを、この章では示してくれています。
ともすれば、いじめに参加している生徒みんながいじめに荷担しているような印象を受けることがありますが、そうではないと言っています。例えば40人クラスの内、ひとりは誰も仲間がいなくてもいじめをやめさせようと思っているとします。しかし、クラスの中でその人の次に勇気のある人が、自分以外にあと2人いればいじめをやめさせるだけの勇気しか持っていなかったとします。するとそのクラスでは、いじめを止めに入る人はたったのひとりだけということになります。したがっていじめが、はびこります。例えば担任が替わることで、生徒の心理に勇気が沸いてきて、仲間の人数が少なくてもいじめを止めに入る人が増えてきたとします。そうすると、仲間の数はあっという間に増えていき、クラスからいじめが消えてしまうことも考えられると言っています。ここでこうやって書くだけでは、全く説得力に欠けます。相補均衡の考え方を紹介してないからです。気になる方は本を読んでみてください。わかりやすく書いてあります。
ここでも帰属の基本的エラーが起こっているのではないかと問題提起をしています。心にだけ原因を求めていたのでは、広がりや実効性に欠けていても、違った考え方で新たな道の可能性を提供してくれています。
[第三章 心でっかちな文化理解を取り除く]
なぜウィンドウズやVHSがスタンダードになったのかは、周知の通りです。知人が皆ウィンドウズを使っているのに、自分だけマックを使っていたのでは不自由なことも多いからです。VHSにしても同じです。ビデオをレンタルするときに、数が少なくて困ります。
では、なぜ日本には、日本的な年功序列の会社がこうもたくさんあるのでしょうか?本ではウィンドウズやVHSが広まった話と同じ考え方ができると言っています。日本的慣行がウィンドウズのように広まっていったのです。
ウィンドウズのように、いったん日本的慣行が世の中に広がり始めると、その勢いを止めることはできなくなります。就職した従業員が自分の会社に不満を持ち、辞職をしたとします。しかし、周囲は日本的慣行の会社ばかりです。新卒を採用し、定年まで雇い、中途採用はほとんど行わない会社ばかりです。辞職した彼は次の職を見つけられずきゅうきゅうとします。その様子を見た周りの人は、自分は辞職をしないように、リストラされないように、生涯会社にしがみつくことになります。本の最後に出てくる著者からの提言に直結する部分です。
[第四章 内集団ひいきはどのようにしてうまれるのか?]
集団を作るだけでひいきが起きるのかどうかを、実験をして調べています。結果は、集団を作るだけでは内集団ひいきは生じないと出ました。集団を構成している人たちの間に、自分と同じ集団だから相手も自分にひいきにしてくれるだろうという期待感が、内集団ひいきを引き起こしていました。実験では、そう思う傾向が強い人の間で内集団ひいきの行動が見られ、あまり期待感のない人の間では内集団ひいきの行動は見られませんでした。
[第五章 誰もが皆、心の道具箱を持っている]
人工知能にものごとを判断させようとすると、ありとあらゆる場合を判断させなければならなくなります。判断すべきでないことは、判断しなかったらいいのではないか?ということも考えられますが、判断すべきでないことを判断するのも、膨大な量の情報量です。結果、人工知能には人間のような判断ができないということになります。
「心の道具箱」といのは、人工知能と違って人間が、現実世界で、複雑な判断を瞬時に行っているしくみに説明をつけるための考え方です。例えば、引き出しから鉛筆を引き出すために時限爆弾のスイッチを切らなくてはならないとします。人工知能では、引き出しを開ける前に、ありとあらゆる予想を立てなくてはなりません。引き出しを引いたら火山が爆発する可能性があるか?引き出しを引くことによって核戦争が起こるか?そのうちに時限爆弾は爆発してしまいます。しかし、人間はそんなことを考えず、あっという間にことを為し遂げるでしょう。それは、プログラムで言えば、引き出しを引く前に時限爆弾のスイッチを切って鉛筆を取る、という作業を組み込んである状態に似ています。人間にはこのように、あらかじめ用意されたプログラムがいくつもあるのだと言っています。
[第六章 心の道具箱を整理しよう]
他人を信頼する人はだまされやすい人なのでしょうか?心の道具箱がどのように発達してきたかを考えることでこれに答えを出しています。
他人を信頼する人がいたとします。その人の心に裏切り検知器のようなものがなければ、だまされっぱなしになってしまいます。だから、心の進化の過程(疑問がある方は本を読んでください。ここではこのまま受け止めてください)で、他人を信頼する人は、同時に心の中に裏切り探知器を発達させてきたと考えています。つまり真の個人主義です。このような人は、知らない人との関係を、信頼できるかどうかを判断することで、どんどん築いていけます。
逆に、その反対の人、つまり他人を信頼できない人は、気の置ける仲間との関係を重視します。村のような場所で過ごせば、誰が信頼できて、誰が信頼できないかを判断しなくてもいいからです。もし仲間内で裏切りがあれば、村八分になってしまうおそれがあるので、誰も裏切りを起こそうとしなくなります。いまの日本の会社のようです。会社という村で安住して、外に出る人がいません。ウィンドウズのように広まってしまった均衡状態は、なかなか崩れることがありません。
[さいごに 文化はつくるもの]
いまの日本では、不況で会社がつぶれ、雇用環境に変化が生じ、会社に安住する均衡状態が崩れつつあります。インターネットの普及など、社会の変化が急速です。いわば日本の村社会が崩壊し、新たな社会の均衡状態に移ろうとしています。その均衡状態がどのような状態なのかは、著者もわからないと書いてあります。ただ、変化があまりに急激なために、古い均衡と、新しい均衡との間の期間に、原理の空白期間が生じてしまう可能性があることを示唆しています。この警告に対して、備えるのは私たち自身です。
3,独断と偏見で「見どころ」に意見します
帰属の基本的エラーについて
就職活動をしていて思ったことがあります。みんな大人になるとなんらかの職業に就いています。就職活動をする前には、その職業に就いている人の大半は、それなりの理由や信念があって就いているのだと漠然と思っているところがありました。しかし、これも帰属の基本的エラーのようです。就職活動中に出会った人から話を聞いていると、本当にそれしかないと思って活動している人はむしろ少数でした。私も日常的に帰属の基本的エラーを犯しているようで、気をつけなくてはいけないと、この本を読んで思いました。
4,日常生活へどう活かすか?
これから日本はどうなるのでしょうか?雇用の流動化はますます進むように思います。そのような状態の社会になったときに必要な考え方を、自分なりに考えておく必要があると思いました。
具体的には不特定多数との関係(そういう関係ではない!)を築き上げること、資格を含め、自分自身を売り込むときの材料を増やすことが思い浮かびました。
【あっき】
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